私は中学・高校を熊本で過ごしました。
その当時には「画廊喫茶ぶらうん」の存在を知らなかったのですが、大学生になり本格的に喫茶店の魅力に目覚めたころから、帰省するたびに「画廊喫茶ぶらうん」へ通っています。
第二の家のような、とても大好きな喫茶店です。
(今回の記事は2017年4月に訪問したときの写真を主に紹介しています)
お店の様子
「食うなら此処 熊本カレー 元祖の店 辛さに人生あり」
ふと唱えたくなるキャッチコピー。
飲み屋街にある緒方ビルの2階にあります。
初めて行ったときは、ドキドキしながら階段をのぼりました。
2016年4月の熊本地震により一部被害を受けた壁。
カウンターは6席、テーブルは全部で4つあります。
画廊喫茶なので、いたるところに棟方志功や地元の作家さんの原画が飾られており、芸術家の隠れ家やアトリエのような雰囲気。本棚にはたくさんの画集や写真集が並べられています。
時々、店内で個展や弾き語りライブなども開かれていて、熊本の文化発信の場としても有名。
おっとりしていて、いつも笑顔で迎えてくれる北川ママ。
マスターが亡くなられた後は一人で「ぶらうん」を切り盛りしています。
初めて来たお客さんにも、常連さんにも、分け隔てなく自然に話しを振ってくれて、ママと話しているだけであっという間に時間が過ぎてしまいます。
ママこだわりの美しいカップたち。
画廊喫茶ぶらうんのメニュー
こだわりカップでいただくホットコーヒーや
まるーく注がれたクリームに、
しゃりしゃりに砕かれた氷まで美味しいアイスコーヒー
そして名物はなんといってもカレーライスです。
ラグビーボール型のごはんに、牛すじを丹念にザルでこしたピリ辛のカレーがかけられています。
濃厚なこの味は一度食べたら忘れられない味。
いつもママが前の晩につくったお惣菜が添えられているので、それも楽しみのひとつ。
画廊喫茶 ぶらうんの歴史
もともとマスター1人でやっていた喫茶店にお手伝いとして働き始めた北川ママ。
恋愛結婚はおろかカップルで街を歩くのも珍しがられる時代でしたが、よく二人で阿蘇で山登りをしたり、クラシックコンサートに出かけたりして仲を深めていったそうです。
そして、
1963年(昭和38年)11月23日に「画廊喫茶ぶらうん」が開店しました。
ポスターには、世界の喫茶年表と日本最初の喫茶店「可否茶館」の誕生に続いて「ぶらうん」開店と書かれています。
こちらのポスターは熊本出身の画家・坂本善三さんによるもの。開店のこけらおとしには個展が開かれたそうです。
an・anにも掲載
an・anの「青森・熊本の喫茶店特集」で掲載された記事。
なぜ「青森と熊本」にスポットが当たったのか謎ですが、とても貴重な資料です。
収集した120個以上のランプが天井にぶら下がった斬新なインテリアは、当時じゃなくとも圧倒されます。
ママ曰く掃除がかなり大変だったようです…
こちらはお店のアルバムから。
この赤いエプロンは、東京へ喫茶店研修に行った際訪れた「らんぶる」の店員さんが赤いエプロンを付けていたのを真似して特注したものだそう。
ジャズ喫茶「タロー」とロック喫茶「ジロー」
昔は「ぶらうん」の他にも「タロー」というジャズ喫茶と、「ジロー」というロック喫茶をしていたそうです。ちなみに、ふたつとも息子さんの名前から。
「タロー」は1968年に開店し、6年間続きました。
この「ジロー」は「ぶらうん」とはまったく異なるテイストで、調度品などを排除した、ただジャズを聴くことだけに特化したジャズ喫茶。
「ジャズの嫌いな人は行かないこと」という注意書きが。生半可な気持ちでは行けませんね…
ジャズ喫茶時代にマスターがたたいていたコンガは、今も店先に飾られています。
マッチ箱
こちらは現在のマッチ箱です。
「カレーライスのあるコーヒー店」
裏面にはゲーテの言葉。
こちらは旧ぶらうんのマッチ箱。
坂本善三さんによるデザインです。
【追記】2020年5月30日に閉店
読者様よりコメントをいただき、ぶらうんが2020年5月30日をもって閉店されたことを知りました。
私にとってぶらうんは初めてできた「行きつけの喫茶店」
熊本に帰ればいつもぶらうんへ寄って、美味しいカレーを食べながら北川ママとおしゃべりしたり、おすすめの画集を眺めたりするのが当たり前だったので、突然の閉店は心にポッカリ穴が開いたようにとても寂しいです。
熊本市「画廊喫茶ぶらうん」30日閉店 若い才能に発表の場、街の文化温め57年ー熊本日日新聞
熊本日日新聞の記事によると、毎日夜10時まで店に立つママの体を心配した息子さんたちが閉店を勧めたそうです。
いつ行っても変わらない笑顔で「いらっしゃい!」と迎えてくれた北川ママ。美味しいカレーと珈琲の画廊喫茶ぶらうん。ありがとうございました。
コメント
私も休日に、「ぶらうん」に通ったクチです。残念ながら、2020年5月30日、57年の営業に幕を閉じられました。今でも足が、「ぶらうん」へ行ってしまうのです。
Acoustic様、コメントありがとうございます。
閉店のこと、はじめて知りました。
ただただショックです。
もちろんママもご高齢ですし、「お店やれるのもあと2〜3年かな」なんてよくこぼされていたので、いつかは閉店すると分かってはいましたが…
実際その日が来るととても寂しいですね。ママの笑顔が恋しいです。
貴重な情報をありがとうございました。